無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

酒は休んでベンザブロック

金曜日、起きたら、あら、風邪をひいていた。

へえ〜〜。

木曜日はあちこち移動したので、そのどこかで貰ってきたのかもしれない。

忘れていたが、風邪をひくと、そういえばいつも、こんな動きが体に出るなあ、という、私の定番の変化があって、それらも現れているのにさっき気付いた。


かわいい。


風邪をひいたのも、几帳面にいつもの変化がでてるのも、

かわいく思えてしかたがない。




いま、お風呂あがり。突然ふと、ある感情が浮かんできて、その感情を認めたくなくて、赦したくなくて、わき出た感情を打ち消そうとした、そんな一瞬があった。

それにハッとした。そのあと、じーんときた。


かわいい。


私を通って放出されようとやってきたその感情が、まずかわいい。

またそれを気に入らなくて、否定したがった気持ちが、またかわいい。

物凄く意味があって、でもその奥を見ると、意味なんて実はなにもない、という、体験が凄まじくかわいい。じーん。





よくもまあ。





とってをひいて戸を開けてバスタオルを出す、ふさりと枕カバーがわりにする。
折っていた長袖の袖をなんとなく直す。
まだ当分消さないお風呂場の換気扇の音がたまにいきなり意識される。


もう、かわいくてかわいくて。




たまに強烈にやってくる、このなにもかもかわいい、は、まあすぐに引っ込む。習慣が戻って、せき止められる。長年、そう。

寝て起きたら、風邪はただ鬱陶しくなっているだろう。
やなこと思い出して、ティッシュの箱を壁に投げつけるかもしれない。


それすら、かわいい。



このかわいいのもとにあると、あれもこれも、大差ない。
例えば、さっき煮物のメモをとったシャープペンシルが目の前に転がっていることと、かつてリウマチで苦しんだことは、出来事として、重さにかわりはない。



…………寝て起きるを待たず、こうして書いているうちに、いまもう、かわいいが薄くなってきている。


はやいじゃないか。