無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

okitsune2013-11-05

草津温泉に来ている。




夕方、温泉街の小高いあたりにある白根神社に参拝して、鳥居から出ようとしたら。

猫が草やぶから出てきて、ゆっくりしとしと歩いて前を横切った。
茶トラの方。


そっと声をかけたら。


立ち止まって、こちらを見てくださった。数秒。


私がどうするでもないと知ると。


また、同じように、ゆっくりしとしと歩いて、舗装されていない、自身と同じ色の紅葉の落ちた細い道を、静かに進んでいかれた。


見送った。




私の所からは、音もなく、の景色であったけれど。


ごく、そばにいて、地に近く、耳をすませていられたら。

四肢の、同じ色をした紅葉を踏みしめる音が、聞こえるのかもしれないと思った。
自身の耳では聞いているのかもしれないと思った。

聞いてみたかった。





さっき、温泉宿のお風呂から出て、部屋に向かう通路、どうでもいいことをなんとなく思っていた。


ふと、どうでもいいことから還ってきた。


私が踏みしめる、その階段の、そういえばよく聞こえる音を、うん、うん、と聞いた。


よく聞いて、部屋についた。