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草津温泉に来ている。
夕方、温泉街の小高いあたりにある白根神社に参拝して、鳥居から出ようとしたら。
猫が草やぶから出てきて、ゆっくりしとしと歩いて前を横切った。
茶トラの方。
そっと声をかけたら。
立ち止まって、こちらを見てくださった。数秒。
私がどうするでもないと知ると。
また、同じように、ゆっくりしとしと歩いて、舗装されていない、自身と同じ色の紅葉の落ちた細い道を、静かに進んでいかれた。
見送った。
私の所からは、音もなく、の景色であったけれど。
ごく、そばにいて、地に近く、耳をすませていられたら。
四肢の、同じ色をした紅葉を踏みしめる音が、聞こえるのかもしれないと思った。
自身の耳では聞いているのかもしれないと思った。
聞いてみたかった。
さっき、温泉宿のお風呂から出て、部屋に向かう通路、どうでもいいことをなんとなく思っていた。
ふと、どうでもいいことから還ってきた。
私が踏みしめる、その階段の、そういえばよく聞こえる音を、うん、うん、と聞いた。
よく聞いて、部屋についた。