無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

エリック・サティの「船について」

okitsune2008-06-30

作曲家のエリック・サティは、自分の曲の楽譜に、図形や文章をも書き込む人だったらしい。
どうやらそれは、弾き手が演奏中に読んだり、それを聴いている人が弾き手の肩越しに見るためにであったらしい。
そしてサティはそれを、演奏中に大声で読むことを禁じていたとか。
なんというか、こう、ステキな人だったらしい、サティ。


そのサティの曲で「船について」というのがある。1分半くらいのピアノ曲
これも文章付きの曲。

私ははじめ、何も見ずにただ曲だけ聴いていた。
ただ音だけで、波の様子や景色やらがそのまんま伝わってくる、なんとも楽しい曲なのである。

何度も聴いてから、やっと、その、文章というのを黙読しながら(声をあげて読んだらサティに注意されてしまうから)聴いてみた。


ぞくっときた。


ひとつひとつが音にぴたっとくるのだ。
そのまんま伝わってきていた、そのまんまの描写として。


波のまにまに
小さなしぶき
もうひとつ
さわやかな風
海の憂鬱
小さなしぶき
もうひとつ
軽い縦揺れ
小波
船長がいう「すばらしい航海だ」 船があざわらう
遠くの景色
そよ風
ごあいさつに波しぶき
接岸



ぞくっとくるのを通り越して、一瞬凍り付いて息が止まってしまったのが、最後の、“接岸”。


それはまさしく、接岸の音だったのだ。

あの、岸が近づいてきて、揺れながら、近づいていって、そしてついにくっついてしまう、船遊びが終わってしまったがっかりした気持ち、揺れていた体が止まる感じ、ボートに乗ったことがある人なら誰でもわかるであろうあの“接岸”が、音になっていたのだ。


こんなふうに書くと、もしこれを読んでからたまたま聴く機会がある人がいたとして、たぶん意識して聴いてしまうから、言われたほどでもない、という感じに聴こえてしまうものなのだと思う。美味しいと訴えられて食べに行って、確かに美味しいけれど期待に届かないのが常であるように。

だから、これからこの曲を聴く機会がある人の楽しみを奪ってしまうことになるのかもしれないが、まあそれは縁の不幸として流してください。


ジムノペディ」「ジュ・トゥ・ヴゥ」などがサティの有名な曲ですが、「船について」もぜひいつか聴いてみてください。



サラダに入れていた南瓜がサラダ用でなくて、別枠、単独で食べるものになってしまっている写真。味付けはなにもなし、ただ蒸かした南瓜が美味しいです。ごはんとしておやつとして。