きく
「タイスの瞑想曲」という曲がある。
タイトルを知らなくても、聴けば、ああ、これね、と分かる、誰もが知っている曲である。
あるときまで、私のこの曲への感想は、“け!”でしかなかった。
なに、こういうの聴いて“癒され”ちゃったりするわけ?、などと鼻でわらっていた。
ところが。
何度もタイスを聴いたことがある私であったが、あるとき、グリュミオーの弾くタイスを聴いて、変わってしまったのだ。
鼻かんだ。
かみっぱなし。
奏者って、おそろしいと思った。
いまでも何度聴いても、グリュミオーのタイスはティッシュ必須。
さっき、1時間くらい、うとうとした。
「プロジェクト松 ステキな東京魔窟」で書き下ろしした、「耳鼻科という闇に立ち向かえ」という8ページがある。鼻に異常がでて、まだ行ったことのない、正体の知れない、私にとっておそろしい耳鼻科にデビューする話である。
その、後半に、森がでてくる。
さっき、夢の中で、その森のまえに立っていた。
書き下ろしの中で、私は、森の主、闇の声をきく。ちいさな子どもの私は、森のなかにいる山バトの声を、闇の声だとして、とらえるのだ。
夢のなかの私は、やはり、ある声をきいていた。
正体がわかってはいけないような声。
わかってはいても。
今年の夏、私は、実際その森に行っている。小さな私が立った、あの森の前に行ってみたのだ。
じぃっと奥をみた。
グリュミオーは、ほかの奏者が私にできなかったことをしたのだ。
きかせたのだろう。
奏者っておそろしい。