無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

朝の縁

クロネコヤマトにビジネス5というのがあって、それは、朝の10時前くらいまでに直接荷物を営業所に持っていけば、23区内であれば17時までに届けますよ、というサービスで。


私はよく納品に使っている。

朝まで描いてたのを納品するときに。

つまり、それまで起きていたわけだから、さあこれから寝ます、というタイミングなわけで、つまりあれです、朝の9時半とかに寝酒ちょっとしましょうか、の心持ちで、クロネコをあとにしたりしているわけです。



帰り道に、その店はある。

暗がりの、酒屋。


営業してはいるのだが、ひっそりしていて、入口の間が妙に狭くて、なんというか、ウチとりあえずまだやってます…、という消極が香るたたずまいなのだ。品揃えもあやふやな印象。


その引っ込み具合が私の探検魂に響いて、このところ、そこに寄っている。
午前のゆるやかな魔境。


先日。
店の冷蔵庫の、日本酒が寄り添っている(出陣を待って堂々並んでいる、というより、仕方なくまだ残っている、という様子。商品としての輝きがどこか希薄な為こう言いたい)あたりの、しゃがまないと見られない奥をのぞいたら。


知らない名前の酒。
720ミリリットルの瓶の。
ラベル変色。
製造年月H18.10。
3分の1剥がれた値札1100円。


酒蔵からすぐこの店に来たとして、もう6年以上経っているではないか。


そうか、おまえ。
ずっとそこにいたか。


ぐっときた。
あたしが呑むよ。


連れて帰った。



ウチについて、移動でぬるくなったぶん、ちょっと冷凍庫にいれてばーっとひやして。早速。

なかなかどうしておいしいのだ。
本醸造
日々草酵母使用、ですって。へぇ。
いい買い物をしたぞ。


呑みながら、携帯で検索。そしたらば。


蔵、平成21年で、廃業していた。
230年以上も歴史のある、愛されてきた酒造だった。


そうだったの、おまえ



瓶をなでた
蓋をつまんだ
ラベルをながめ
白い湯呑みのなかの、うす金色の酒をさっきよりだいじにすすった



会えたのをよろこびながら、でもほんわりさみしいのを感じながら。

この全体を通して。