無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

余計なことはおぼえているくせに。

okitsune2012-02-10

明け方。


可燃物を出しにいく前、そういえば、もう履かない、捨てていい靴があったはず、と
玄関の棚を開けて幾つかある箱の中を確かめたら。


その内のひとつから、捨てていいどころか、気に入りの、なのに持っているのを忘れていた靴が出てきたではないか。


再会を喜びながらも、うめいた。



はたしてこれ、去年履いたんだっけ、と思い返してもそんなことすら思い出せない。軽いタイプのものだから、履いていたなら春先から夏あたりかもしれない。どうだっけ。気に入りだったというのに。


最近の私はあらゆる分野で老人を発揮していて、中でも記憶分野でははなはだしい。
なので思い出せないからといって、もうずっと仕舞っていたのではないかな、などというのも、だから当たる気がしない。


一昨日だったか、昨年10月に買ったデロンギヒーターの領収書や保証書の入った封を見たら、あら、おもてにキチンと、デロンギ、と書いてある。中を開けなくてもわかるように。

前の私だったら、書いたことを覚えていたはずなのだ、こんなことでも。なのに今は、たった3ヶ月ちょっと前のことでも、まるきり消えている。


3ヶ月でこれなんだもの、だから、まあ、いいや、どうでも別に
って、その靴を見ながら、あれ、っと思ったのは、気に入りだったはずが、今はもう、たいしてそう感じない自分になっていることに気づいたからで。
好みも老人的変化をおこしているように思えたからで。



へええ、とうめく私の声も、幾つかの意味合いのこもるハーモニーであった。