無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

祝10年

この家に住んで丸10年、初めてのことだった、パチンというなにか物が勢いよく切れるような音がして、夜9時少し前、部屋が真っ暗になった。
寒がりだからまだ出してある炬燵に入ったまま、真横のガラス窓を開けないまま外を見て、よその家や街灯が元気でいるのを知って、へえ〜〜、と顔が微妙にわらった。
電気の使用具合はいつもと同じ、なのに、こんなふうにブレーカーがおちるなんてあるんだねぇ、と、初めての事態が楽しかったのだ。
そろりそろりと歩いて、隣の部屋の棚の戸を開けて、中の懐中電灯を手にとる。震災後に用意した物で、使うのはこれが初めて。ついに出番がきたよ、アンタ、ところで点くかな、買って6年経つけど・・・あぁよかったちゃんと点いた、そうだよ普段たまには点検しないとね、そうだったね、などと、気づかされながらまたそろりそろりと歩いて暗い部屋を横切り、ブレーカーを照らしたら。
幾つかある内の、台所、とシールの貼ってあるブレーカーのみ、下にさがっていた。あら、じゃあ、ほかんとこは点くの?
点いた。横のトイレや水場の電気、煌々と点いた。
懐中電灯、いらなかったか、なんだ、でも点検の必要性にハッとしたからいいんだ。
明るい中で台にのって、パチン、台所のブレーカー、元に戻した、さっきデロンギヒーターをオフにしたから、その分電気は余裕があるはず、でも手元の態度が堂々としてないのは、初めて触るところだから、感電するわけないのに、ちょっと死がよぎったから。私、こういうとき、いちいち死がよぎるタイプ。
部屋が明るくなって、いつもに戻った。
ご飯を炊いてる最中だった。
炊飯ボタンを押しなおした。いつもと同じくおいしく炊けるのだろうか。

いま、高らかに、炊けましたよ!のアマリリスの歌を炊飯器が歌った。
無事炊けていた。

多少警戒して、デロンギはまだ弱めにしてある。