無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

錯綜

宅配便を出した。
豆本を送るためだ。



大阪の、紀伊国屋書店阪急32番街店さんが、荒呼吸3巻をお買い上げの方抽選5名様に、32番街店さん手作りの3巻の豆本をプレゼント、という企画をやってくださって、その豆本に有難くサインさせていただいたのだ。その出来上がりの豆本を、かの、おしかけ編集者岡山氏宛に送ったのだ。


宅配便の伝票に、品名記入の欄がある。
ふと、手がとまった。
ここに、豆本、って、書かないよな、
と思ったのだ。
例えば衣類を送るのに、詳しく、膝丈プリーツスカート、と、そこまで具体的に書かないのと同じように。
じゃなんて書こう。
豆本はなんて書いたらいいのか。



ふと、書類、と書いてしまった。書類を送ることが多いから、まあいいか、と、一瞬片付けようとしてしまったのだ。
でも思った。書類じゃ、あんまり“大事な感じ”がしない!
せっかく企画・ご応募いただいたのに、その心に対して書類ごときじゃなんである、と。


で、とっさに、土産、と書いた。
土産じゃねえよ! 瞬時に自分につっこんだ。
なんで土産と書いたのかというと、差し上げもの→土産、の構図がなんだかよぎったからなのだ。あと、関東と関西の距離感が働いている。でも土産じゃねえよ。
でも土産のほうが、書類より大事感がある。本筋に近寄ってはいる。


で、版下、と買いた。
これは。
原稿を宅配便で送るときには、版下、と記入する。もし私が宅配便やさんだったら、版下か、そりゃ大事だな!って思うと思う、という勝手な自分の心があったからなのだ。そんなの、ごく自分の中のことなのに。宅配便やさんは、なんて書いてあっても、きっと大事にあつかってくれるだろうに。
封筒の外側には、扱い注意のシールがちゃんと貼ってあるというのに。


そんなふうに、送りました。だから伝票がこんなになったのでした。


ところで岡山氏の名前は、難しい漢字なので、その具の部分がわからなかった。
その漢字を検索、パソコン画面を200パーセント拡大して、具をきっちり確認して、宛て先欄に書けた。
こちらは自信満々。




ところで、この私の錯綜はどこからうまれてきたのか。
それは、あの品名欄は誰のためにあるのか、という迷いからである。
私はどこか、宅配便やさんと受け取り人の、どちらがあの欄を必要としているのか、よくわからない部分があったのだ。受け取り人のため、という意識がきちんとあったなら、豆本、と記したはずである。