無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

湯治中。

朝起きて。
ごはん前にお湯に行こうと。
その前にコンタクトレンズを目に入れようと。


昨日は目休めでコンタクト無しで過ごしたけれど、今日は湯からの景色を楽しむ為に入れようと。
山の雨が降っていて、その霞んだ様子を見ていようと。



コンタクト、まず左目から入れて、よしうまく入った、じゃ次は右目。


装着後はいつも、手で片目ずつふさいで左右の見えっぷりを確認している。なんとなくこの儀式を続けている。今日もまた。

そしたらば。



あれ。
あれ、左目、へん。左目、よく見えてない。あら。
 


私は左目の方が視力がよくない。だから左目のコンタクトは右より度数が高く、そうやって両目のバランスをとっている。だから、見えっぷりは同じようなはず。なのに左目がうそのようにぼやけている。

持参の使い捨てコンタクトレンズは最近買ったばかりのもので、視力だってその時はかり直していて、問題はないはずだ。


ふと。
もしかして、裏表を間違えてつけてしまったか?そのあたり間違えないように、キチンと確認して入れたけれど、なにせ最近めっきり年寄り、確認したって間違えてることもある、とすんなり認めてるくらいに、さまざまで年寄りを発揮しているのだから。あるある、あるかも。


では左目のコンタクトを外して付け直そうと、指を、眼球に置いた。
つまんで、ぞりっと剥がそうと。そう、剥がそうと、何度か指を動かした。



剥がれない。



あら剥がれない。
剥がれなさすぎる。
あまりにも。



ハッと。
下をみた。
蛇口の下の、流しの底に、何かが。



ぺらりとした薄い円のアレが。




目には、入ってなかったのだ。
指からはらりと落ちていたのだ。
目に、よしうまく入った、そんなふうに思ったあれは、ただそう思っただけのことだったのだ。



もっと。
私はもっと私を疑っていい。大々的に。
ぜんぜん信じなくていい。


そしてそういうのが、この頃はもうラクで心地いい。



写真は部屋から見える新緑。