無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

われのみかひともかよひぬ

いま、AM3時過ぎ。
買い物に、外に出た。そうしたら、たまに、あるのだけれど、長野の山のにおいがした。


どうやって流れてくるのだか知らないけれど、長野の山のにおい。
まあ、浅間山が噴火すれば火山灰が遠くまでやってくるのだから、すごく昔、船橋の実家の屋根に浅間山の火山灰がつもったことがあるくらいだから、においくらいも無事やってくるのだろうけれど。



長野に縁がある私は山のにおいといったら長野の山のにおいになってしまう。


毎年、夏にいまでも長野に行く。
上野から新幹線に乗って、軽井沢で降りる。しなの鉄道に乗りかえるために。

軽井沢の駅に降りると、いつもとってもいいにおいがする。
唐松のにおい。もしかしたら、私がそう呼んでいるだけかも知れないけれど。


軽井沢駅前は、標高はあるのだけれど、それなりに車も通っていて、状況は山奥ではない。なのにこの唐松のいいにおい。毎度感激する。来たなあ、って思う。


しなの鉄道に乗り換えて、私の毎年いく山奥へ行く。
山奥でしばらく過ごす。養生する。


帰る日がやってきて、とんぼに挨拶して、しかたなく山をおりる。
しなの鉄道に乗って軽井沢までいく。すると。



もう、唐松のにおいは、しないのだ。
来たときはした、においがどこにもないのだ。


ヘタすると、車のガスのにおいしか、しない。


山奥で、もっと山のいいにおいに慣れてしまって、そんなわけで感知しなくなってしまうのだ。
どこ探してもない唐松。ただ

浅間嶺にけぶり立つ見つ 




堀切の下町に山のにおい。

荒川のにおいの中に山のにおい。


そのうち仕事おわって、やっと山にいって、そして帰ってきたら、

しばらく、いくら夜中でも、どこにも無いにおい。