無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

おおいぬふぐり

ひとつ前の日記に、おおいぬふぐりの写真をのせたので、思い出しました。

私は千葉県で生まれて育ったのですが、ほんの少しだけ、長野に住んでいたことがありました。その短い間に、むこうの小学校に入学したのです。

入学してすぐ、あっけなく転校することになったとき、ひどく悲しみました。だって私は毎日友達と、蛙をつかまえたり木の実を拾ったり田んぼに飛び込んだりどこに何の花が咲いているかを見つけたりして、それはそれは幸せに過ごしていたのですから。

船橋にかえってきて、地元の小学校に入ってすぐ、掃除当番で、庭掃除にあたったことがありました。校庭ではなく、裏のほうの、草むしり。
そこに、はえていたんですよ、長野でさんざん愛でていた花が。
雑草といえば雑草ですが、小さな私にとっては、とんでもなく大事な記憶のある草花なわけです。

むしれない。

いやいや転校してきて、ただでさえキズついているのに、更に自分で手をくだしてキズをなぶることになってしまうのですから。むしることは、記憶の否定でもあるのですから。


任務といえども、私は掃除の班長にいいました。私はこれをむしりたくない、と。

そしたら、班長、“じゃあ、いいよ”と、すんなり解放してくれました。
私は嬉々と、ちょっと別の場所に移って、枯葉なんかを拾って掃除当番を済ませました。
同じ班の子たちに、それは、そのままはやしておいてくれ、とお願いしたら、じゃあこれは、このままにしようね、ということになって。

今おもえば、まあ、かわりに別の日に別の子があれをむしったのかもしれませんが。



むしらなくてすんだおおいぬふぐり。

毎年この時期になると、今年も無事これが咲いているかどうか、あまり手入れをしていない植え込みや道の端っこの方とかに、やたらと集中してしまいます。