無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

トマトの匂い

okitsune2010-08-27

家からわりかし歩いていったあたりに、無農薬野菜の無人販売所がある。
販売所の横が畑になっていて、置いてあるハサミとカゴを持って自分で欲しい野菜を収穫、販売所の中にあるはかりに乗せてボードに書いてあるグラム幾らで計算、料金表に詳細を記入して、料金箱にお金を入れて、ありがとうと去っていくシステム。


初めて知ったのは、もう10年以上前かもしれない。
ちょうど管理者であるおじさんがいて、話好きらしく、いろいろ聞きがら畑を見せてもらった。


無農薬にするまでは大変だったらしい。土を元に戻すのにも数年かかったとか。肥料の研究などしながら、しかし念願の無農薬畑は出来上がった。無農薬にしたら、自然と虫がつかなくなったという。おじさん曰く「そこらへんで自生してる実とかって、だって薬無しで無事じゃない」と。


当時、まだそういう試みはこのあたりで珍しく、まわりの農家からの風当たりは強かったらしい。「田舎は保守的なのよ、違うこと誰が始めると、なんだかんだとね。私の畑に虫がいないからって“ウチの畑にアンタの分の虫が来る”なんて苦情を平気でしてくるし(笑)」


おじさんの野菜、地元からは受け入れてもらえなかったけれど、リゾート地のホテルのシェフ達には人気で、相当喜ばれたらしい。


久しぶりに、今日、行ってみた。
前回行ったのはいつだったか。ずいぶん年月が経った。
まだ畑はあるのか、おじさん健在かも分からずだったが、散歩がてら、とにかく行ってみた。あの時美味しかったトマト欲しさに。


畑、無事、あった。


おじさんは、不在だった。


ハサミとカゴ持って、畑にそろりそろり入る。
トマトは一番奥。
普段、畑に入ったり収穫したりなんていう機会がないから、なんだか顔がわらう。

トマトの列を歩く。
大きいのも中くらいのもある。
このトマトはもういいかな、と思ったのを握ってちょっとひねったら、ハサミを使わずに、スッととれた。何かが通いあった気分。その瞬間、トマトの青いいい匂いがした。そうだった、トマトってこんな匂いだった。ずっとかいでなかった。


私収穫のトマト5個、850グラム、100グラム50円なので425円、ホクホクと持ち帰り。


家について緑のエビスビールでもぎたてトマトは、満足の夏の味。