無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

呪いという慢性

自分で自分にかけてしまっている、不必要な、バカな呪い、というのがある。誰にでもきっとたくさんある。



去年だったか、実家でご飯を食べているときに、ヒロコ(母)に言われた。
アンタって、よく噛まない。
そう。気づいてた。私、あんまりモグモグしない。割とすぐ飲み込んじゃう。
昔からではない。かつてはちゃんと噛んでいた。のだが。



常々、いけないなあ、とは思っていたのだ。よく噛むのって、とっても身体に大事なことだ。
指摘されて、ああやっぱり私って噛む回数少ないんだな、と意識を更にするようになった。
だから、ちゃんと噛もうと、改めて思った。しっかり思った。
思っているのに。


なぜか上手に噛めない。わからないけれどつらくなって、ついごっくんする。そして、よく噛もうという決意を平気ですぐに忘れる。もしかしたら、“忘れたがる”。
あきれるほど、ただ噛むという、そんなことができないのだ。なんなんだこれは。
いいかげん、できないことにうんざりしていた。昨日の朝まで。




昨日の朝。
ご飯を食べていた。たまたま本を読みながら食べていた。いつものようによく噛まなきゃと意識しながら。


ところで私はこの頃、いきなり過去の何かを、なんでこんなことをと思うようなことを、みょうに思い出す。
はっきりとは探れない、つまりコントロール外にある、どうしようもない動機が産み出した脈絡の果てに、長年意識から消えていた某もろもろが姿を現すのだ。鮮明に。


今回のきっかけは、たぶん、その読んでいた本の、どこかの言葉が、手伝ったのだと思う。


かつてあった某出来事によって、自分がどんなふうに傷ついて、そこから自分を守るために、仕方なくどんなふうに対処したか、いきなり思い出したのだ。
それによって私のあみだした行動というのはなんと、よく噛まない、ということだったのだ。


!!!!!!!!


もちろん、よく噛まない、のはなんの解決にもならない。ただ、つい走っちゃったこと、でしかないのだ。
ただのその場の心の対処、だ。
対処は、その場を取り繕うだけのものでしかない。根本改善に作用しない。


そのショックだった某出来事から、当時(10年くらい前)逃れられそうになかった私は、あきらめるしかなくて、よく噛まないことで救われるしかなくて(笑)、今現在、そのショックはもう私の現実からすべて消えて影響の心配がないというのに、不必要な、バカな呪いだけがいつのまにか習慣として残って慢性化して、いまだ逃れられずにいたというのだ。ちっとも必要ないのに!



これから、なにか食べるときは、毎回、もう大丈夫なんだからね、そんなことしなくても、傷つけられないんだからね、と、いいきかせよう、と思った。徐々に、治るだろう。
原因がそればかりでないかもしれないから、うまくいくかわからないけど。


無意味な呪いは沢山ある。それによって、生きやすくしようとしたというのに、結果あとから相当生きにくい。


こうしたら、きっとこうなるだろう、というヨミも、呪いに変身しやすい。
その架空の展開がいつしか自分の中で可能性が濃くなってしまう呪縛。
だからヨミなんざとっととはずれるのがよし。




よく噛まない、以外に、もう一つ、でかい呪いがあって、それも少しずつ治している。もう呪いだして20年以上するかもしれない。


気づいていない呪いもたくさんあるんだろう。ほんとうは、そこなのだ。


本当のコンプレックスは、きっとわからないのだ。


ウチのハナちゃん

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ステキな東京魔窟―プロジェクト松

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