無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

謎のおばさん

いないだろうか、妙なあだ名がついている親戚というのは。
ウチにはいる。
パラッチャッチャおばさん
というのが。


そう呼んでいるのはウチのヒロコ(母)だけかもしれない。
だってヒロコの口以外からそれを聞いたことがないのだから。
でもふだん親戚付き合いのない私は血縁と会っていないから、ヒロコ以外からそれを聞かないのも仕方のないことで、だからその説はあまり正しくないかもしれない、でも、とにかく、ウチにはパラッチャッチャのおばさんというのがいるのだ。

誰だよそれ。


多分、何度かヒロコから身元の説明をうけたことがあるのかもしれない。きっとある。なんとなく説明をうけたことは記憶にある。でも特に関心がないので内容を覚えちゃいないのだ。だから、先日またヒロコの口から
パラッチャッチャ
と出てきても、ピンと来ず、それって誰だっけ、と一瞬思ったものの話のこしを折るのも悪いからそのままヒロコの話したいままにしてしまって、そして話題がいつの間にか変わり、誰かをただす機会をなくし、私は今日もパラッチャッチャのおばさんが誰だかわからない。


ちなみにヒロコ、東京うまれの東京そだち、特異な御国言葉は無い。
であるからそれは地域性のある何かではないはずだ。
パラッチャッチャと発音するとき、なにか愉快な気配を放っているから、その音に笑える思い出でもあるのだろうか。


まだ私が小さな頃、“おととい”という単語を知らない頃、それを表そうとして、
「あさって前」
と表現したことがあった(あさって、は知っていた)。
“あさって”のベクトルを逆にしたのだ、二日先、を、二日前、へと。だから、「あさって前」。
このことを、それから何年たってからも、ヒロコから
「ねえ、そういえばあさって前にね・・・」
というふうに、普通に会話に使われてしまっていた。
可能性としてそんな何かかもしれない、パラッチャッチャ。


音が良すぎてこわいパラッチャッチャ。


血のつながりの無い相手でありますように、とどこかで思っている。


ウチのハナちゃん

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ステキな東京魔窟―プロジェクト松

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