無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

草津温泉 草津穴守稲荷神社編

出発前、草津にもおキツネ様があるはずだと調べたら、あった。草津穴守稲荷。稲荷神社巡りが趣味の私だが、前回行った10年前は、神社は好きであっても稲荷にはまだ注目していなかった頃だから、記憶になくても仕方ない。

草津穴守稲荷は私の泊まるホテルの近く、西の河原公園のあたりにあるらしい、そうおもうと、チェックインなんてやって部屋に荷物置いてああしてこうして、なんてじらしてる時間が耐えられなく思えてきた。はやく稲荷へ。
荷物持ったまま、稲荷にいそいそ向かった。

むこうまで広がっている西の河原公園、あちこちお湯が湧いている。

それっぽい名前の付いたこういうの↑のその湯気の向こうに赤い何かが。鳥居だ。

近寄る近寄る近寄る。ここらへん雪がほかより多くて道が凍結してるから気をつけて、でもはやる心をおさえきれなくてグイグイ近寄る。階段の下まで来て、喜び噛み締めながら見上げた。あそこに居る。逢いたい稲荷があそこに居る。
たてを読むとこうあった。むかし東京の染物屋の主人が湯治により病気平癒、それがきっかけで主人が信仰していた東京羽田の穴守稲荷を分霊、勧請、ここに草津穴守稲荷あり、と。へえええ。もう一つのたてには、“招福のお砂”なるものがお社のところにあると書いてある。ブツに弱い私、更に沸き立つ。鬼の茶釜エイコ。

階段をのぼる。のぼるのぼるのぼる。下の階段より上の階段のほうがもっと雪が多い。カッチリ凍結してる。こわいこわいこわい。でも私は鬼の茶釜、左肩にでかいバッグ、右肩に揺れるリュック、腹ににぶく光る物欲、眉間に赤い笑み。
傍から見たら、なにこんな危ない所をわざわざ両肩にでかい荷物かかえてあの女はのぼっているのか、奇妙におもうだろう、ねえ、でもいいのだ、思うがいい、私以外は解からなくていいのだ。稲荷!
少しでも気をゆるめたらツルリといきそうだった。手すりが命綱、一段一段慎重にのぼる。一段一段その足場のその一番足を乗せていいあたりを、乗せる時の角度を確認しつつのぼる。見えてきた、稲荷!

ここであせっちゃいけない、より丁寧に少しずつ近寄る。そして着いた。稲荷ー!

転ばないで着かせてくれて有難う。格子の隙間から中を覗く。こんちわこんちわ。

ああ〜おキツネ像もいらっしゃるですね、武生は・・・ないみたい。
挨拶終えて、さて、招福のお砂(二百円)である。

 この招福のお砂っていうのは何かというと、私らの生活は土(砂)の上で活動が始まって恵みをうける、というあたりから、なんかきてるらしい。へえ。で、このお砂を効き目の欲しい部分にあわせて、撒くらしい。たとえば家内安全には玄関に、病気平癒には床の下に、新築増改築には敷地の中心へ、と。
扉を開けると、サラサラより粒大きめのザラザラの白い砂と、すくうレンゲと、おさめる封が中に。そして瞠目したのが、この貼り紙。

 うーん。きっと、がばがば持ってっちゃった人かなんかがいたのかもしれない。管理してる人がすぐそこに居る稲荷じゃないから、来た人が、みなさん貰って帰れるようにするための配慮なのかもしれない。
でも、興ざめ。“ご利益が半減”は、言っちゃいけないのだ。そこらへん、生身が介入しちゃあいけないのだ。所詮、人間のつくりあげたもの、と、ここでこうやってさらしているにすぎなくなってしまう。一人1杯です、で、いいではないか。そんなんじゃあ、効き目なかったのかな。・・・事情があるのだろうな。うん。














 

くだりの凍結階段は、のぼりなんてもんじゃなかった。
しかし無事に、ホテル猫のチーちゃんに逢えたのだった。