無償の悪

松本英子。漫画、イラスト業。

草津温泉 〜再会編〜

いまどき隙間風なんて我が町堀切菖蒲園を走る京成線でさえ、吹かない。
オヤジが昼間っから缶チューハイ飲んでて夏場は蚊が風に乗って向こうの車両から流れてくる京成線でさえ、吹かない。
ところが吹いちゃう汽車がある。上野発、特急草津3号の某窓際の席。私は窓のどっかがガコンガコンいっててそっから入ってくる隙間風に心酔していた。山にさしかかったら吹雪が入ってくるかもしれないと夢見た。入ってこなかったけど。吹雪、吹いてなかったし。そして隙間風は最初だけで、すぐなくなっちゃったし。上野から長野原草津口まで約2時間半、の内の最初の少しだけ楽しめる隙間風だったのでした。貴重です。

先日、2泊3日で草津温泉に行った。何度も行ってる、なのにまた行きたくなる草津温泉に、再び。

朝まで仕事やって宅配便で納品して、そのまま旅仕度、一睡もしてないのに覚醒していた。上野駅で朝ご飯に選んだお弁当にその心が表れていた。その名も“幸福弁当”。うまうまの幸福弁当食みつつ、隙間風にびうびうやられつつ、踊り子号みたいにビュー草津号だったらちょっと笑ったのにとか思いつつ、埼玉通過あたりではさすがにうとうとしても群馬入って吾妻渓谷にさしかかる頃は何が何でも再び覚醒、そのうちダムになって消えてしまう渓谷を胸が痛くなりながら見て、ため息。ところで川原湯温泉駅は昔ビーグル犬が2匹いたんだけど今はどうかなあと探したらもうあの小屋は無くて、そりゃあそうだよなあ、最後にここを通り過ぎてから10年経ってるもんなあ、とつくづくと10年に我に返った。
10年前、もうじき会社員を辞める頃、草津に来たのが前回だったのだ。会社辞めてイラストとかの仕事したいからどうにかお願いします、ってお願いした草津の観音様はお元気だろうか。

あっという間に着いた長野原草津口駅から、バスに乗る。
そこから草津温泉まで約20分。途中、むこうに真っ白な浅間山が見えた。山という山の中で一番好きな浅間山。雪の姿もまた良かった。
浅間は白くても、こちらは端っこのほうにチラチラ白いのがあるだけだった。これなら草津の町を歩き回れる。坂をあがって階段のぼって観音様にお礼に行ける。そして今回是非行きたいあそこに行ける。共同浴場巡りができる。バスの中で草津節が流れる。くさ〜つ〜よいと〜こ〜♪いち〜ど〜は〜おいで♪ ほんとですよ。私なんて魂うばわれてますよ。長年にわたって。


草津バスターミナルを降りると、うああ!そうだ、ここはそうだった!と思い出す。なんて硫黄のいい匂い。ここは町中硫化水素なのだ。大好きな硫黄の大歓迎。嬉しい嬉しい。真剣に寒かったから手袋もマフラーもしてたけど、ちょっと外してみた。硫黄の空気にあたりたいし、手から嗅ぎたいのだ。

もっと烈しく硫黄を満喫しに、坂をくだった。でかい荷物持って、でも足早だった。坂をくだる坂をくだる坂をくだる、そして、いたーーーーー!!!

これは湯畑。たくさんある草津の源泉のうちの一つ。町の中心にある、草津の名所。
こんこんと、熱いお湯が湧きつづけているのである。私はわれながら傲慢なタイプだが、お湯が湧いている姿を見ると、こればかりは、素直に、有難い、と、思う。

 

一箇所でじっとしてながめたり、まわりをまわったり、しばらくずっとそばにいた。おもいきり濃いい硫黄の香り、堪能しながら、いままたこうして草津にいるのだといちいちかみ締めながら。



ホテル(いつもは旅館派だけど、今回は一人旅プランのあるホテルをみつけてネット予約した。草津ですから勿論かけ流しの温泉つき。なんと猫までいることが判明。スパックス草津、という宿です。一人で行きたい猫ずきの方、どうぞ。ホテルの皆さんの感じが素晴らしく良かったですよ)にチェックインする前に、かの観音様のとこへ行く。最初まちがえて白根神社にあがってしまった。でもここもまた来るつもりだったので御参り。千社札がたくさん貼ってあったけど武生はなし、でも千住永見の札はあった。私ら(松本&H岩)の千社札を持ってきてないのがくやまれた。
白根神社の階段をのぼりながら、硫黄ではない、すごくいい匂いをかいでいた。小さな子どもの頃によくかいだ、冬の山の匂いだった。
私は長野に縁があって、いまは夏しか行かないけれど、小さな頃は冬も行っていた。冬の山ですることはソリで斜面をくだることで、勢いつけて滑って唐松に顔面おもいっきり激突、鼻の横がパックリわれた娘のキズ顔を見て母は“持参金”という文字が浮かんだという。そんなこともあったっけ。そんな頃、よくかいだ冬山のいい匂い。



ぶじ観音様(と私が呼んでいる某)にたどり着く。どうもどうも10年ぶりです、の挨拶。ささやかな規模ですが、どうにか仕事はしています、と報告。多目のお賽銭をして、深深、御礼。


次回、〜草津穴守稲荷神社編〜、に続く。